アーティストインタビューVol.6 お弁当・アニメーション作家宮澤真理さん― 本物のお菓子でできたアニメーション 「Decorations」が世界中を駆け巡るまで ―
今回は、第3回記事として、予定を大きく変更して、宮澤さんご本人にご執筆いただき、国際映画祭にご参加された際の貴重なお話や、東京芸術大学大学院に進まれた経緯、想いについて語っていただきました。
-年齢は夢を諦める理由にはならなかった―
アニメーション作品を作りたい。その想いが勝って実現した大学院生活
※)第2回後編記事につきましては、8月下旬に、宮澤真理さんインタビュー最終記事として、特設第5回コーナーとしてご紹介させていただく予定です。
前回までの記事をご覧いただけます。
第1回 (作品の素材は本物の「たべもの」たち。デジタルの分野で実績を積みあげたデザイナー、宮澤真理さんが到達した新境地、「お弁当・アニメーション作家」世界を魅了する良質な作品が生まれる、意外なきっかけとは ― ?)は下記ページでご覧いただけます。
第2回前編 ― お話の続きはいつも頭の中で繰り広げられている ― 「独創性」と「シズル感」の共存を可能にしたもの 「なぜ共感を呼び、観る人の心を打つのか」という宮澤作品の魅力にアプローチしました。
―第3回記事―
映画祭などで海外に出られることが多いと思いますが、現地の体験談、現場の雰囲気など、お話いただけますか?
海外の映画祭ではアニメ関係者ではない方に見ていただくことも多く、感情表現がストレートなので、とても勉強になります。特にお子様達の場合は、気に入ったシーンではsushisushi!と立ち上がってコールしてくださったり、大声で笑ったりで、どのタイミングで楽しいと感じてくださっているのかよくわかります。そして、それが私にとって意外なところだったりして、面白いです。
また、子供審査員が審査する場合は、あらかじめ自分たちでアニメーションを作ってみたり、作品について討論したり、とても本格的に取り組まれている映画祭があったりして、見習うべきところかなと思います。
ご自身の転機、影響を与えた人について、教えていただけますか?
一人目は祖母です。いつも三日坊主の私に、それでもいいから一生懸命やってみなさい、いつかきっと役にたつ日が来るから。と繰り返し言ってくれた人です。
最近までピンとこなかったのですが、アニメーションを作るようになってから、細々と必要になったスキルに、今までにバラバラに気の向くままにやってきた多くのことが役立っていると感じるようになりました。
なるほどこのことを祖母は言ってくれていたのかと納得しました。まるで、今まで当てともなく海に投じてきた地引網を浜で引き上げ始めたら、沢山の魚が網にかかっていたというような感じです。
作品を作る際に必要な知識や技術、経験が、これまでの記憶の海からどんどん網にかかってあがってくるような驚きがありました。
二人目は白夜書房の編集長の岡部さんです。私がお弁当をネットで発表し、話題になり始めた頃、最初に出版のお声をかけていただいた方です。
そんなに景気のいい時代でもなくなっていたので、売れる本の企画しか通らないという時代に、すごい賭けだったと思います。
でも、私が作っているものはお弁当だけれど、アートだと認めてくださいました。それまで、自分の表現手段としていたデジタルなもの以外で、表現手段を探していた私にとって、これはとても大きな自信となりました。
また既存のキャラクターを使えば本の売り上げが伸びるとわかっていても、私のオリジナルでやりたいという気持ちを許してくださいました。
ほんとうに感謝しています。お弁当アーティストという肩書を付けてくださったのも、岡部さんです。
海外からメディアの取材が入られたり、先日の映画祭でのワークショップなど、体験されたことを詳しく教えていただけますか?
私のブログには、海外からのアクセスが結構有ります。
多い時には、半分くらいが海外からのアクセスだったことがあります。
現地の日本人の方のアクセスもありますが、やはり海外の方のアクセスが大半です。現地の言葉でコメントいただいたり、片言の日本語でコメントいただいたり、私の作品を見た驚きやお褒めの言葉を率直に頂いて、とてもうれしいです。
こうしたこともあって、世界各地の新聞や雑誌に取材いただいています。使いたいお弁当の写真を指定いただくのですが、やはり日本のメディアとはちょっと違っていて、とてもおもしろいです。
海外の方でキャラ弁作りにチャレンジされる方も増えてきていて、当時投稿を受け付けていた私のブログにお作品を送ってきて下った方もいました。
手に入らない素材を他のもので代用したりしながら、個性あふれるお弁当を作られていて、とても楽しかったです。
こうしたこともあってか、フランスでは「乙男」という日本のコミックのフランス語版を出す際に、巻末にキャラ弁の作り方を掲載させていただいたりしました。
びっくりしたのは、ブラジルのテレビ局が私の家にまで取材に来たことです。
ブラジル人のレポーターさんの前で、お弁当を作ったのですが、とても興味深そうに見て下さいました。しかも、それがバラエティ番組などではなく、ニュース番組で放送されたのです。
これまたびっくりです。新しく生まれた日本文化の紹介ということだったのでしょうね。
先日のザグレブ国際アニメーション映画祭では、私の作品のプレゼンテーションとワークショップを開催させていただきました。ワークショップでは、パンダおにぎりなどを作ったのですが、大人の方がすごく楽しんでくださったのが印象的です。
お寿司の店がザグレブにもあって、結構人気なのだそうです。ご飯も海苔も見たことがないということはない、という状況ではないのですが、まだまだお弁当には縁がない感じの国で、こんなに楽しんでもらえるとは思いませんでした。
食生活が違っていても、食べることを楽しみたいという気持ちは同じなんだなと思い、とても嬉しかったです。
このワークショップでも、驚きがありました。
参加者の中にクレイの人形と作ったばかりのパンダおにぎりを組み合わせて、構図をとっている方がいたのです。
さすが、アニメーション映画祭のワークショップだけあって、アニメ関係の方にもご参加いただいているのだなぁ、なんて思ってよく見てみると、「ひつじのショーン」や「ウォレスとグルーミット」で有名なアニメーションスタジオ「アードマン」の創設者ピーター・ロードさんです。
硬直するくらいびっくりしました!! アカデミー賞3度受賞のスタジオの創設者に、私のキャラクターを作っていただけたなんて! しかもごはんと海苔で。
こんな経験も海外の映画祭ならではだと思います。
聞いている側が何ともワクワクする素敵なご経験談から、話題を変え少し時間を戻します。現在アニメーション作家としての土台を作られ、学ばれる場所となった宮澤さんの母校 -東京芸術大学大学院に進まれた経緯について -ストレートな想いを伺いました。
東京芸術大学大学院に進まれたのは、ある程度キャリアを積まれた後、周囲は若い方も多かったと思いますが、抵抗などなかったですか?
大学卒業後に社会人を何年か経験してから大学院に入って来る方は珍しくはありません。しかし、私ほど高齢になってから入った人はいないと思います。感性が固まってしまった人を入学させてもダメなのではないかという声もあったのではないかと思います。
しかし、学びたいという気持ちを汲んでいただき二年間、学ぶことができました。とても感謝しています。私自身も入れていただけると思ってなかったのですが、門を叩いてみて良かったです。躊躇する私を後押ししてくれた家族にも感謝しています。
決断の過程で、授業の内容や教授の方々や修了された先輩方のプロフィールなどを調べたりしたのですが、授業の内容はともかく、教授のみなさんも修了生のみなさんもお若くて、不安がなかったかといえば、うそになります。
なにせ、最年長の教授の方よりも私が歳上なのです。しかも、通学には、2時間以上かかるという遠距離の通学。
でも、アニメーション作品を作りたい、そのために学びたい、という気持ちがまさりました。
入学後は、同級生たちのとのジェネレーションギャップ的な感性の違いや、体力面でたいへんだったことも事実です。
若さってすごいなと思うのですが、同級生たちは、徹夜の連続で作品を作っていました。毎日のように大学院の校舎に泊まりこみです。
私は、さすがに徹夜は出来ないので、ほどほどのところで帰るようにしていましたが、終電を逃して近所のホテルに泊まって、翌日朝早く大学院に行くということが何度もありました。
今思うと、よく続けられたなと思うのですが、以前の私の活動の中では知り合えない若い人たち、アニメーションに強い情熱と高い意識を持った人たちと長い時間を過ごしたことはとても大きな体験でした。
アニメーション制作の技術を学んだことよりも、むしろそうしたことが今の作品作りに反映されているように思います。
やはり、大学院で学ぶ前とあとでは、私の作品は我ながら驚くほど変化しています。もちろん、良い方向にです。
大学院に行っていなければ、わずか2年間ほどで、これほどの成長はなかったでしょう。
結局、やりたいことがあったら、年齢に関係なく、最善と思える道を選んでチャレンジする。
それが大事だと思います。
さまざまな壁があるにしても、情熱を持ってチャレンジし続けると、いつか道はひらけて、新しい自分の発見につながっていくのだと思います。
次世代を担う若者たち、セカンドキャリアを目指す人など、宮澤さんからメッセージがあったら教えてください。
やりたいことや、気になることがあったら、どんどんやってみることだと思います。
すぐに興味がなくなっても、その経験は無駄ではないと思います。いつか本当に全身全霊で何かをやるときに、きっと役に立つ場面があります。そのときは、きっと「今、私は地引網をひっぱっているんだ」と嬉しくなりますよ。
といっても、まだまだ私はアニーション作家としても人としても、偉そうなことを言える段階ではありません。
この先まるで違う展開もあるかもしれません。振り返れば、あのときはまだ地引網を投げているところだったと、振り返るのかもしれません。人生最後までわからないですものね。
今後の活動、新作等のPRがありましたらぜひお知らせください。
詳細はまだ発表できないのですが、「こにぎりくん3」を制作中です。毎回そうですが、またまたいろんな角度から新しいことに挑戦しています。放送は夏頃になりそうです。ぜひご覧くださいませ。!
それから、「こにぎりくん1」を収録したムックと「こにぎりくん2 おかいもの」を収録した雑誌が夏から秋の間に発売される予定です。これも、まだ詳細を明らかにできないのですが、発売されたらぜひお手にお取りください。
【宮澤真理さんプロフィール】
1983年日本大学芸術学部美術学科卒業。
2014年東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。
2000年までコンピュータゲームのグラフィック制作に従事。2002年から食品でアートを追求するお絵かきお弁当を発表。銀座、梅田で個展開催。2007年よりJ:COMにて食品を使ったショートアニメを公開。
Decorationsで第18回文化庁メディア芸術祭 審査員推薦作品、第31回シカゴ国際子ども映画祭 子供アニメーション部門グランプリ、トロント国際子供映画祭2015 最優秀短編アニメーション賞などを受賞。
【AnimatoMusicArtsコンサート】
8月14日(日)横浜美術館レクチャーホールコンサートで宮澤真理さん作品「Decoarations」特別上映決定!
「宮澤賢治と出会う夏 星めぐりのコンサート」 コンサートページURL http://animato-musicarts.net/2016/08/14hoshimegurinoconcert-animato
活動歴・実績
http://www.e-obento.com/activity
「Decorations」受賞・上映歴
http://www.e-obento.com/decorations/%E5%85%A5%E8%B3%9E%E3%83%BB%E4%B8%8A%E6%98%A0-award-screening/
「Twins in Bakery」受賞・上映歴
http://www.e-obento.com/twinsinbakery/award-screening
公式ウェブサイト 「e-お弁当作っちゃいました!」