数々の国際映画祭で、受賞、ノミネートが続く、長編映画『アルビノの木』(金子雅和監督作品)。当サイトからも映画案内を掲載させていただきましたが、いよいよ、本日5月27日(土)から一週間(6月2日(金)まで、シネマ・ジャック&ベティにて)、劇場公開されます。
公開にともない、横浜ViaggioインタビューVol.16 (映画監督 金子雅和さんインタビュー)を急きょ設定、貴重なお話の数々を、記事にまとめました。
出演者との出会いや撮影秘話を交え、映画の輪郭を、金子監督の言葉でなぞっていただくことができました。ぜひ当記事をご一読の上、劇場で『アルビノの木』をご覧ください。美しい映像、ストーリーの展開をご堪能いただけることと思います。
Q.まずはじめに、映画監督(または広く映像の分野)を目指されたきっかけについて、伺ってよろしいですか?幼少期から思い描いていたのか、それとも大学時代などに、転機があったのでしょうか。
金子監督 : 幼少時代は絵を描くのが好きで、画家やデザイナー、漫画家など、絵にまつわる仕事に憧れを持っていました。
なので美術系の学校への進学も考えていたのですが、高校生の文化祭のときにクラスで映画を作ることになったのがきっかけで、映像に興味を持ちました。
と言ってもその時は映画というより、テレビドラマやCMなど映像全般への興味が芽生えたという感じでした。それまでに映画を作ろうとは、思ったこともなかったです。
その後、大学生になってから非常に絵画的で素晴らしい映画の数々に出会い、映画でこういうことが出来るのかと、もともと好きだった絵画と映像が結びついたところに自分が一番やりたいことがあると気付きました。
それからイメージフォーラム付属映像研究所という土曜のみの映像のワークショップに行き、そこでアシスタントのアルバイトもやって、映像制作を具体的に知り始めました。大学卒業後、働きながら映画美学校というところに通い、企画やシナリオ、そしてより劇映画的な現場のことを学びました。
Q.「アルビノの木」を撮ろうと思った理由、作品への監督の想いをお聞かせいただけますか。
十代終わり、自分が意識的に映像を作り始めようと思った時に最も撮りたいモチーフ(ストーリーではなく画として撮りたいイメージ)は、「大きな自然と、その中にいる人間」の画でした。
その後、作品のストーリー性が強くなっていっても、常に物語のクライマックスは山や川の中など、大自然を背景にドラマを展開してきました。
これは自分が根源的・本能的に撮りたいと衝動を感じる画なのだと思うのですが、二本目の長編である『アルビノの木』では、その自分がもっとも惹かれる「自然と人間」というモチーフをただ画としてではなく、物語のテーマそのものにしたいと考えました。
とても壮大なテーマですが、古くから人間が作ってきた数多くの「神話・民話」は、自然と人間の関係を表現しているものが多数です。なのでこの作品作りもまた、”現代においての「神話・民話」” を目指しました。
昔の神話や民話は、今の人が読むと御伽話のようであったり、リアリティのないものだと感じたりしますが、実はその時代に生きていた人たちの実感・生活感情に根ざして作られていると思います。
ですので『アルビノの木』もただ現実離れしたファンタジーを作るのではなく、現代日本の自然と人のあいだで実際に問題となっている「害獣」問題をスタート点に設定してます。
ですがこの映画は、現代の問題に対しての具体的な解決策を描いているわけではありませんし、特定の考えを啓蒙するものでもありません。なぜなら「自然と人間」のあいだにある問題はとても切実で、ひとつの答えを簡単に出せるものではないと思うからです。
綺麗事や、分かったような答えに導くのではなく、寓話的な物語を設定することで、ご覧になった一人一人の方が、それぞれの生活の中での「自然と人間」の関係に対して考えるきっかけとなったら、と思っています。
どんなに私たちの生活が文明化されても、人間は人間以外の他者から命をもらって生きています。
それは人間以外の動物も同じく、食べて活動していくためには避けることの出来ない生命の根源にあることですが、そのような事実は、現代社会では見え辛くなっています。生きることへの実感や痛みを失いがちな現代の私たちに対して、この映画は静かに問いかけをするものでありたいと思います。
Q.予告映像や、スチルから溢れだす美しさに惹きつけられました。映像へのこだわりなどお聞かせいただけますか?
現代の「神話・民話」にかなう映像にするため、2008年から2014年の間に自分が日本各地をロケハンに訪れ(延べ1万キロ以上)、ここだと思った場所を探し、撮影してます。
それら場所は人を容易に近づけない厳しい自然の中にあり、気象状況で立ち入ることが出来なかったり、季節によって表情を大きく変えます。
なのでベストな撮影が出来る時を探るため、決定的なロケ地に関しては何年にもわたり季節や時間を変え、何度も何度も通い、実現の方法を探りました。その結果としての映像があると思います。
そして実際の映画撮影は個人でするものではなく、俳優、撮影・録音・照明など、いろいろなパートの人との共同作業で行うので、自然環境でのロケはスタッフキャストの人たちにはずいぶん苦労をかけましたが、皆さんとても素晴らしい仕事をしてくれました。
また、ロケ地周囲の地元の方たちの協力無しには、この映画は実現出来ませんでした。
Q. 前のお話を受けて、撮影中の思い出、ハプニングなどありましたからぜひ、教えてください。
主演の松岡龍平(ユク役)さんとは、自分の初長編から約10年、短編と合わせ今回が5回目の現場でしたが、スタジオ撮影のようには制御のきかない自然の中での撮影を何度も一緒にやってきた彼がいたからこそ、(この映画は極めてローバジェットなのですが)撮りきれたと思います。
松岡さんは普段、とても穏やかな人ですが、本作の中で10月の源流の中、ずぶ濡れになって共演者と激しく争うシーンがあります。秋とはいえ、東北の山奥なので水温は非常に冷たく、水の中にいると肌に刺すような痛みが走り、役者は体の震えで喋ることも難しくなるような状況でした。
そんな中、どうにか撮影を終えたあと、徒歩で車を停めている場所まで一山越えて戻るのですが、そこにある温泉に入ってもらうつもりが17時で閉館してしまい入れなかった時は、流石の松岡さんも、ずぶ濡れのまま我慢してきただけに失望が露でした(笑)。
これは1エピソードに過ぎませんが、役者やスタッフの様々な苦労のおかげで撮れたシーンが沢山あります。
また、山奥での撮影ですので各ロケ地、常にクマなどの野生動物への注意が大事でした。それでもクマ・イノシシ・サル・カモシカ・シカ・キツネなど、多くの動物が撮影中に目撃されました。
Q.大自然の中での撮影ならではですね。さて、「アルビノの木」から、少しスポットを拡げて、お話伺います。デビュー作品からさまざまな形で映像にかかわりながら、短編映画、そして今回の「アルビノの木」が2作目の長編映画とお見受けします。「アルビノの木」(または最新作)にいたるまでの経緯、思い出深い作品についてなど、ありますか。
2012年夏に群馬県桐生市・きりゅう映画祭の助成のもと、現地で撮影させて頂いた「水の足跡」という短編があるのですが、ひとつの土地についてじっくり考えながら撮る、その土地の人とコミュニケーションを取りながら作る、という方法は、この作品の制作を経て自分の中でとても大切なものであると実感するようになりました。
このときの経験が『アルビノの木』にも大いに活かされてます。そして「水の足跡」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭でノミネート上映され、会場で長谷川初範さんに声を掛けて頂き『アルビノの木』へのご出演が決まりました。他にも「水の足跡」をきっかけとした様々な出会いが本作の撮影や、いまの全国上映の後押しとなってます。
Q.短編映画『水の足跡』が、 俳優の長谷川初範さんとの出会いにつながり、さらには、さまざまな方が『アルビノの木』の作品作りに参加されるきっかけになったんですね。監督の映画への情熱、お人柄もあったことと察します。そんな金子監督、ご自身で、どんな人だと思いますか?
ものすごくマイペースだと思います。過去からご一緒している役者さん、スタッフさんはそのように認識しているようです、初見の人にはあまりそう思われないようですが。
人から自分のペースを乱されるのが本当に嫌なので、人の自由も同じように大切にしたいと、日頃思っているからなのかも知れません。もちろん、それが完全に出来ているわけではないですが・・・。
Q.オフの日、どのように過ごしていますか?または普段関心のあることなど、教えてください。
旅行、美術館巡り、古書店で本を探す、買った本を読む、映画館へ行く。
民俗学が好きで、旅行やロケハンをしていても、その土地の自然や歴史性と、そこにかつて生きていた人たちとの関係性を考えます。なぜこのような地形になったのか、そしてなぜ人はそこに住んだのか、その環境の中でどのような暮らしの仕方を選択したのか、など。
そこから映画作りのヒントが生まれますし、過去を考えることは、今の自分たちの生活を一度立ち止まって振り返るきっかけになると感じます。同時に、あまり自分ひとりの好みだけに閉じ困らず、幅広くニュースや、話題作にも興味を持つようにしてます。
Q.新作についてや、今後について、ありましたらぜひ教えていただけますか?
まだ細かいことは言えないですが、モチーフとして準備しているものは2つあります。
ひとつは、自分は東京生まれ育ちでありながら、その作品の殆どを地方で撮影してきたので、一度じっくりと東京という土地に向き合って撮りたいと思ってます。
今の都心部は土の匂いとは全く縁のない場所と思われがちですが、その土地を少し掘り起こせば、どのような忘れられた過去が見えてくるのか。過去に生きていた人と、現代を生きている私たちが共通して思う「大切なもの」とは何なのか、そういった視点の映画です。
もうひとつは、『アルビノの木』でも鉱山跡が出てきますが、鉱物の発掘など文明の発生の根源にあるのは多くの場合、火山です。特に日本は世界有数の火山列島で、神話や歴史の発生も火山と密接に関係しているようです。
鉱物を生み出し、同時に深刻な災害ともなる「火山」を巡る物語を考えてます。
Q.最後にぜひ監督からメッセージをお願いいたします。
横浜ジャック&ベティでの『アルビノの木』上映、5/27(土)~6/2(金)の一週間限定です。
長野・群馬・山形で撮影した大自然のロケーションは、CGなし、すべて実際に現代日本に存在する場所です。劇場の大きなスクリーンと音響で、86分間見たことのないような場所への旅を体験して頂き、その旅から何か、今までの日常とは違うものを発見してもらえたらと思います。
大自然には行かなくても、自分たちの普段の生活の中にも常に自然との関係があります。映画を見たあと、そのことに、ふと感じ入るときがあったら嬉しいです。
<金子雅和 プロフィール>
1978年東京都生まれ。
青山学院大学国際政治経済学部(スラヴ世界の歴史と文化専攻)卒。
大学在学中にイメージフォーラム付属映像研究所の助手をし、8mm/16mmフィルムで習作的な映像制作を始める。
のち、古書店で働きながら映画美学校に通い、瀬々敬久監督の指導を受ける。
同校フィクションコース高等科の修了制作に企画が選ばれ初監督した 『すみれ人形』は、
07年ひろしま映像展などで受賞、08年都内6週間レイトショー公開、09年DVDが発売(発売元:TMC)。
ハンブルグ日本映画祭(ドイツ)にて正式上映される。
その後、企業VP/CM、ケーブルTV番組、ゲーム用映像などの撮影・演出の仕事に
携わりながら、WEB配信用の企画や自主製作、及びに助成企画に選出されて
6本の短編映画を監督。
その内の一本である『水の足跡』(2012年・きりゅう映画祭助成作品)は、
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、オーディトリウム渋谷などで上映され、
山形国際ムービーフェスティバル2013にて準グランプリを受賞。
2016年、第二回長編監督作『アルビノの木』が北京国際映画祭のコンペにノミネート、
テアトル新宿で劇場公開。現在も各地で巡回上映中。
また、他監督の撮影を担当した作品として、
現代美術家・会田誠が主演した短編映画『砂山』(監督:松蔭浩之/2013年森美術館で公開)や、
小説家・乙一が本名の安達寛高 名義で監督した『Good Night Caffeine』(2015年春劇場公開)などがある。
【映画『アルビノの木』劇場案内】
期間 2017年5月27日(土)~6月2日(金)
時間 17:45~19:15
会場 シネマ・ジャック&ベティ http://www.jackandbetty.net/
映画『アルビノの木』公式サイト http://www.albinonoki.com/
【映画『アルビノの木』初日舞台挨拶】
俳優:長谷川初範さん、増田修一朗さん、細井学さん、松永麻里さん、監督:金子雅和さん、登壇予定。
【シネマ・ジャック&ベティ】 http://www.jackandbetty.net/
〒231-0056 横浜市中区若葉町3-51Google Mapsで見る
TEL.045-243-9800
- ◆京浜急行線 黄金町駅下車 徒歩5分
- ◆横浜市営地下鉄 阪東橋駅下車 徒歩7分
- ◆JR線 関内駅北口下車 徒歩15分
※阪東橋駅では改札にて劇場までの地図をお受け取りいただけます。
※申し訳ございませんが、専用の駐車場はございません。劇場前の通りのコインパーキングをご利用ください。
- ◆最寄りのバス停「横浜橋」
- <市営バス>
- ・2系統(港南車庫前ーみなと赤十字病院) ・32系統(保土ケ谷車庫前ー日本大通り駅県庁前/関内駅北口)
- ・79系統(平和台折返場ー日本大通り駅県庁前/関内駅北口) ・113系統(磯子車庫前ー桜木町駅前)
- <相鉄バス>
- ・旭4(美立橋ー桜木町駅)
- <神奈中バス>
- ・戸03(戸塚駅東口ー県庁入口) ・東06(東戸塚駅東口ー県庁入口)
- ・横43、横44(戸塚駅東口ー横浜駅東口) ・港61(港南台駅ー横浜駅東口)
- ・船20(大船駅ー桜木町駅前)
【『アルビノの木』クレジット】
監督・撮影・編集 / 金子雅和
プロデューサー / 脚本金子雅和 ・ 金子美由紀
出演 / 松岡龍平 ・ 東加奈子 ・ 福地祐介 ・ 山田キヌヲ ・ 長谷川初範
製作 / kinone
配給 / マコトヤ
コピーライト / kinone http://www.kinone.net
公式サイト / http://www.albinonoki.com/
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