西谷尚之氏インタビュー記事
目に見えないものを想像し、それらを想う。 ―プラネタリウム映像制作イーハトーヴ・星めぐりの旅―
2016年横浜Viaggio夏の特集では、サイエンスをコンセプトに、読者のみなさまを夢とロマンの旅にいざないます。
今回は、自然、地球。そして宇宙をとらえた写真を織り交ぜながら、何ともスケール感溢れる記事を掲載いたします。
プラネタリウム映像制作を行う、株式会社イーハトーヴ代表取締役社長の西谷尚之氏にご協力いただき、お話伺いました。
プロフィール
西谷尚之(にしたにひさゆき) 1964年神戸生まれ
大阪芸術大学卒業後,写真スタジオ,映像プロダクションを経て1990年前身の(有)スタジオイーハトーブ設立。 1996年株式会社に改組 現在に至る 学生時代からプラネタリウムソフト制作に従事し、多くの作品をプロデュース 現在は全天周プラネタリウム番組制作のための撮影を中心に、主に宇宙や天空の現象を撮影しています。
株式会社イーハトーヴ http://www.ihatove.co.jp/
〒665-0807 兵庫県宝塚市長尾台2-19-9 TEL 072-786-4190 FAX 072-747-5340
目に見えないものを想像し、それらを想う。 ―プラネタリウム映像制作イーハトーヴ・星めぐりの旅―
Q1)なぜ、写真家の道を進まれたのですか?
A) 母方の祖父が、理科の教師をしていて、幼い頃に、星空や理科全般に興味を持つように教えてくれました。
そのなかに「写真」もあったんです。
基本的なことを教えてもらったように思います。
あと、家にあった学習図鑑のなかで宇宙や天文のところばかりを眺めていました。
高校生の時、“数学”という、化物に出会いすっかり挫折してしまい、アカデミズムのレールからすっかり外れてしまいました。
実家が“いけばな”“お寺”という家業?をしていましたのでそっちに逃げるという選択(笑)もあったのですが、エディプスコンプレックスが激しく、おやじとの会話に失敗しその道もダメと。
大学の時に関西に初めてできたプラネタリウムの映像制作プロダクションに潜り込み、大学も休みがち。中退の一歩手前でふと気づき、要領だけでなんとか卒業できました。
それからは大きな写真スタジオや、写真家の先生のアシスタント。著作権を勉強するための写真エージェンシーで仕事をして25歳で独立し、気づけば今の仕事をしていた。ということです。
Q2) 西谷社長にとっての、宇宙、オーロラ、自然とは、どのようなものですか。
A)人類が地球に生きていることを実感できる自然現象として自分の中
誰もが今の世の中、
ほんとはみんな宇宙の中の小さな惑星“地球”
そんなことを気づかせてくれた“
オーロラは、この現象が、
Q3) サイエンス、というキーワードで、西谷さんの思うところ、お話いただけますか?
A) 全てが、画一的になっている現在のサイエンスが少し心配ですね。
もっと自由に、創造性を発揮して欲しいと思います。
人類の進化、或いはサイエンスの進化は、今見えていることを多角的、立体的に“疑う”ことから始まると思っています。
荒唐無稽に見える現象や仮説をもっと大切にして欲しいと思います。てな事を言うと“陰謀論者”“Xファイルの見すぎ”ってよく言われますが(笑)昔の人が今のロケットやコンピュータを見ると魔法だ!って、きっと思ったと思うんですよ。
リグベーダや旧約聖書にもそんな記述がありますよね。
創造力は進化への近道であると思います。
もっと自由闊達に科学して欲しいですね。
よく学者の中で、足の引っ張り合いや、派閥抗争、特許権争い、なんて科学的じゃないですよね(笑)いろんな可能性。一見荒唐無稽に見えること。
目に見えないものを想像し、それらを想う。科学の原点として、もう一度見直して欲しいと思います。
Q4) 挫折、困難。これまでご経験した中で、何かありましたら教えてください。また、それをどのように乗り越えましたか。
A) 挫折・困難はいつものことですね。いろんなチャレンジをして、借金だけ残ったなんてこともありました(笑)少し抜け出した時に感じる“幸せ”感がとっても好きです。
のたうち回って、いろいろやってみて、諦めかけて、そんな辛い時間を過ごしている。
でもくさらず、なんとか生きている。
すると、ふっと気がつけば大抵自然に乗り越えているのですね。
でも、渦中にあるときはホントにしんどい。
だけどいつかは絶対に通り過ぎる。朝の来ない夜はないって言葉が好きですし、あと、神様は乗り越えられない試練は与えない、も好きです。
いい時ばかりじゃない、悪い時ばかりでもない、万事塞翁が馬なんですよね。
若い時にはかなかな思えなかったのが、最近は年をとったせいか思えるようになりました。
人類の“エゴ”に毒されていない自然が減りつつある気がしている。
Q5) 世界中を巡られていると思うのですが、海外でのどのようなことを感じますか。
また何か面白いエピソード、冒険や、危険な体験などありましたら、ぜひお話ください。
A) 最近とみに思うのは、かなりの辺境地に行っても何らかの人工物があったり、街の光が明るくて、星空が見えにくくなってきたなぁと思います。もとろん日本に比べると、まだまだ人の手つかずの自然環境が残っていて、素敵な場所も多いのですが、徐々に手つかずの自然、環境が少なくなってきている感じがします。
人類の“エゴ”に毒されていない自然が減りつつある気がして、すこし悲しい状態になっています。
今後の人類が、このままこの便利な社会を維持できるかとても興味があります。
いわゆる“持続可能な社会”がこのまま維持できるか?いま、とても注目しています。
いま自然に接していて感じることは、人類のエゴをかなり制限しないとダメじゃないか?てことです。
人も地球上に存在する生命体です。どんな生命にも違いはありません。
地球自体も大きな意味で生命体であると、ジェームスラブロック博士は言っています。
今のままでは人類は、ほぼ確実にこの地球上のあらゆる資源を食い尽くすでしょう。つまり、この便利な社会は維持できなくなるということです。
多くの人が、気づきつつも、この便利な社会を否定できない。
もちろん私もその一人です。でも何か伝えなきゃならないと想っています。
その“想い”を映像制作で表現できればと想っています。
あと秋のカナダにオーロラ撮影に行ったとき間近に大きな“黒熊”が現れ彼の目としっかりと、あったときには驚きました。そこのロッジのオーナーがライフルで駆除(※この言葉は嫌いですが…)してしまったのですが、夜撮影中だったらと思うととても恐ろしかったです。
でも彼ら(※黒熊)のテリトリーである場所に出かけて行っているのは我々なのですよね。
人類ってそんなにえらいのか?
自然豊かなところに出かけて撮影していると、絶えずその言葉が心をよぎります。
その日の夕食に出てきた熊のスープにはどうしても手が出せなかったのです。
もともとセミベジタリアンを目指しているのもあったのですが、スープを目の前にして先程まで生きていた野生の熊の“目”が忘れられず。とても悲しい気持ちになりました。
Q6) プラネタリウムの魅力、プラネタリウムの映像制作の魅力について。
A) 現在のプラネタリウムは、360°全天周に映像が投影されています。昔は星空だけを投影する機能しかなかったのですが、今はちょっとしたCGによる疑似(バーチャル)体験をすることができます。未来の宇宙船の中や、自分では行ったことのない、とてもいけない場所に連れて行ってくれます。しかも、見た目とても綺麗に作られていますので、充分に日常と異なった異次元体験が出来ると思います。
作り手としては以前よりピュアにその品質が問われて、とても作りがいのある世界になってきました。
限られた予算の中で、どのくらいパフォーマンスを出せるかが、いつも問われています。
映像が綺麗に作れるようになって、だからこそ大切な“シナリオ”を最重要に、クオリティ管理をしています。人に伝わるのは“言葉”の力ですから。
Q7) プラネタリウムが好きな子どもたち、大人たちにメッセージを。
A)ほんとの宇宙の姿はまだ未解明です。
それはその97%の質量・エネルギーが見えるものではない、ということから証明されています。
つまり人類はまだ、宇宙の本当の姿を3%しか知らないということです。
これを完全に解明する力を人類は持っていると思います。
でも今の社会では、そんな事を云っていても今の社会では明日の糧を得ることができません。
だからこそ、もっと視点を広く、宇宙・自然を身近に感じ、向き合う人達が増えてもらいたいと想っています。
人類には“考える”“感じる”“創造する”という素晴らしい能力が与えられています。
この力を使ってこの課題に対応してゆける人が多くなる社会をみんなで創って行きたいですね。
―宇宙に住んでいる人類に大切なことは、我々人類は宇宙の中で相互依存の限られた空間で生きている。
生かされていることを知ること―
現在、プラネタリウムもそうなのですが、全て、ヴァーチャルな世界がリアルの世界を席巻しようとしています。
限られたゲームやコンテンツの中の社会はそのゲーム・映像を作った人達の枠の中でしかありません。
人がつくった現代社会そのものです。しかし自然・宇宙は、はるかに大きくまだまだ未解明な事実だらけです。
もっと人類は進化してゆかなくてはなりません。もっと知識を増やさなくてはなりません。
宇宙に住んでいる人類に大切なことは、我々人類は宇宙の中で相互依存の限られた空間で生きている。
生かされていることを知ることです。宇宙は決して遠くのことではなく、このいまの生活そのものが、宇宙で生きているということにほかならないのです。
このことを上手く教えていたのが、かつては“宗教”だったのでしょう。今は“科学”“学問”ということになっています。
世界各地にあった創世神話が壊れ、“貨幣”という 新しい“神話”に置き換わり、宗教も“貨幣”の世界になってしまい、人類の本当の進化のスピードが落ちてしまいました。
いや、むしろそれは退化と言っていいのかもしれません。
私たちは、自然・宇宙の美しさを表現することを通じて、人々に宇宙に住んでいる人類を感じてもらい、人類進化の一助になるべくコンテンツ制作をしてゆこうと思っています。
(西谷尚之氏:寄稿,画像提供)