―本作は、私が作ったというより、彼ら役者のみんなが作ってくれた作品です。―
試写会後の単独インタビューが始まって間もなく、「うつろいの標本箱」の制作工程の質問に、監督はためらうことなくそう言った。
日常に、浮かんでは消える、心のうつろい、揺らぎの様が決して派手な表現なく、静かに淡々と描かれているのだが、監督のいう「役者が作った作品」とは、一体どういうことなのだろうか?
確かに、スクリーンの中で繰り広げられる、若者たちの心の模様は、現実と物語の境界線を曖昧にし、切なくナチュラルに、観る者を魅了する要素であふれていた。
シンガーソングライター黒木渚のファーストアルバム「標本箱」をモチーフに、映画「うつろいの標本箱」の作品作りはスタートした。役者が参加したワークショップから、独創的で、興味深い。今回は、短い時間ではあったが、映画公開を前に、鶴岡慧子監督に、話を伺った。
Q.鶴岡監督は、ご出身は長野のようですが、前作「過ぐる日のやまねこ」を、そちらで撮られたようですね。―
A.はい、上田市出身です。PFFスカラシップにて、映画を撮らせていただきました。
Q.鶴岡監督の少女時代、思春期はどのように過ごされたんでしょうか?
A.自然には恵まれていましたが、娯楽なんて特にないような。
それこそ、私にとっての娯楽といえば映画でした。
Q.憧れ、目標の映画監督などいらっしゃいましたか?
A.よくインタビューで聞かれて答えるんですが、相米慎二監督です。学生の頃、よく観ていました。作品はとても印象深く、刺激を受けたんじゃないかな。
Q.今回の作品は、どのような想いで作られたんでしょうか。若者たちの微妙な心模様や、すれ違う様が、淡々と、でもなんともリアルに、描かれていましたね。すっかり、映画に吸い込まれてしまいました。
A.本作は、私が作ったというより、彼ら役者のみんなが作ってくれた作品です。
Q.といいますと?
A.今回のキャストがそれぞれの役を得て、ワークショップのような形で、役を自由に表現する。そんなところから始まりました。それを私が紡いでいったというのでしょうか。
Q.プロットは、決まっていなかった?
A.いえ、そこらへんはしっかり作ってあって、展開も変わることなく、きちんと筋書き通り、進んでは行きましたが。
Q.セリフは?
A.実は、脚本がある部分と、アドリブの部分とがあります。(笑)
学生たちが、外階段で語らうシーンなんか、まさにそうです。
Q.あー・・・、なるほど。確かに、今の若者のそのまんまな感じでしたね。面白い。
デッサンの帰り道に、みそのと悠一が語らいながら歩く、あの帰り道。あれは?
A.あれは、脚本通りです(笑)。
Q.長いワンカットでしたねぇ。すごい。あのシーン、私とっても印象に残っています。
日奈子が、自室に戻って、声を押し殺して泣き崩れるシーンも。たまらず涙しました。
あまり聞きすぎても、ネタバレになりますね。
ここらへんで、やめておきましょう。ちなみに次の作品はいかがですか?
A.はい、今準備しています。
Q、今回の映画「うつろいの標本箱」について、読者の皆様に、メッセージ、お願いしてもよろしいでしょうか。
A.「うつろいの標本箱」、みんなで力を合わせて、映画公開まで告知頑張っています。ぜひ見に来てください。
どうぞよろしくお願いいたします!
10月29日(土)より公開 渋谷ユーロスペース 21:00~ http://www.eurospace.co.jp/
**PFFとは
“PFFスカラシップ”は、映画の新しい才能の育成
“PFFスカラシップ”は、“映画の新しい才能の育成”を目指し、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)が取り組んでいる、世界でも類のない“映画祭がトータルプロデュース”する映画製作支援システムです。
監督の言葉
黒木渚さんのライブを聴きに行き、細い身体・長い手足の全部をつかって歌う彼女の姿を見て、決して特別であろうとしない、恥ずかしさやかっこ悪さも全てひっくるめた「そのもの」を肯定しようとする、そんな姿勢に感銘を受けて私なりに紡いだのが『うつろいの標本箱』です。
決して特別な日々を生きているわけではない人物たちが、どこかでただすれ違ったり、すれ違う中で出会ったり、それが最後だとは知らずにすれ違ったりする、そんな日々の暮らしに当たり前にある瞬間を、15人の俳優たちと描いてみようと試みました。
(うつろいの標本箱公式サイト 監督コメントより抜粋)
孤高のミュージシャン黒木渚のアルバム『標本箱』をモチーフに、期待の鶴岡慧子監督が描く『うつろいの標本箱』予告編解禁!
2016年10月29日(土)より渋谷ユーロスペースにて公開!
『うつろいの標本箱』(2015/日本/デジタル/95分/カラー) http://hyohonbako.com/
出演:櫻木百、小川ゲン、赤染萌、小出浩祐、橋本致里、佐藤岳人、illy、佐藤開、岡明子、伊藤公一、大森勇一、森田祐吏、小久保由梨、今村雪乃、渡辺拓真
監督:鶴岡慧子/
製作・配給:株式会社タイムフライズ/
配給協力・宣伝:岩井秀世
エンディングテーマ/「テーマ」黒木渚(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)
©2015タイムフライズ
<あらすじ>
ある朝、カメラマンの松島(渡辺拓真)が川辺で死ぬ。それを、大学生のイツキ(櫻木百)と悠一(小川ゲン)が見つける。イツキは悠一に想いを寄せており、松島のことより、悠一がその日絵画教室でヌードデッサンをすることに気を取られていた。絵画教室で、モデルのみその(橋本致里)は、元彼の孝生(佐藤岳人)と3年ぶりに再会する。松島の元彼女・日奈子(今村雪乃)は松島の母に、遺品の中から女性物のハンカチを間違えて渡され戸惑う。日奈子の親友・淳子(illy)は友人の結婚式に参加するため上京してきたが、宿泊先がなくなり、行く宛てなく彷徨っていると、パジャマ姿で川原を徘徊する少年・真希(佐藤開)と出会う。松島の高校の同級生で看護師のサナエ(小久保由梨)はその日の朝、松島の携帯に留守電を吹き込んでいた。家庭教師の亜梨沙(岡明子)は、密かに想っているカフェの店主・竜平(伊藤公一)にようやく名前を聞いた翌朝、弟の真希が病院から消えたと連絡が入る。6人の女性と9人の男性が、誰かを想い、誰かを失い、誰かとすれ違っていく……。
監督・脚本・編集 鶴岡慧子 つるおか・けいこ
1988年生まれ、長野県出身。
立教大学在学中から映画を撮り始め、卒業制作としてつくった初長編監督作品『くじらのまち』(2012)が、自主映画コンテストPFFアワード2012においてグランプリを受賞、その後 釜山国際映画祭やベルリン国際映画祭など各国の映画祭にて上映される。2012年に東京藝術大学 大学院 映像研究科 映画専攻 監督領域に入学。大学院在学中に長編2作目となる『はつ恋』(2013)を監督、同作品はバンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガーアワードにノミネートされた。その後、修了制作として『あの電燈』(2014)を監督し大学院を修了。第23回PFFスカラシップに選ばれ監督した最新作『過ぐる日のやまねこ』(2015)は、ユーロスペースにて公開された。
10月29日(土)より、渋谷ユーロスペースにて 21:00~
渋谷ユーロスペース公式サイト http://www.eurospace.co.jp/
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