横浜Viaggio第5回アーティストインタビュー 古澤英明氏

PAGE 5:Spring 2015

「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」

グローバルセールス・マネージャー 古澤英明氏

古澤英明(ふるさわ・ひであき)

1964年生まれ、東京都出身。「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」グローバルセールス・マネージャー。

幼少時より国内外の各地で過ごし、ホテルマンとして現「ニュー・オータニ」へ入社。同僚を通してゴスペルミュージックと出会い、翌年にはニューヨーク「カーネギーホール」へ出演。その後、業務でロサンゼルスに渡ったのを機に本格的なゴスペル活動を開始。帰国するとゴスペルの魅力を伝えるために退社し、「Global Gospel Communication」を設立。いまでは、現職に復帰するとともに、音楽活動を続けている。

2014年、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」のロビーで行われた ゴスペル・クリスマス・コンサートの様子 前列中央の男性が、古澤英明氏
2014年、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」のロビーで行われた ゴスペル・クリスマス・コンサートの様子 前列中央の男性が、古澤英明氏

宗教音楽の一種であるゴスペルの由来は、「God-spell(ゴッド・スペル)」、日本語でいう「福音」にあるとされている。その核心をなすのは、人種差別に苦しんでいた黒人らによる、奴隷制度からの開放。

主にアフリカから移されてきた彼らは楽譜というメソッドを持たず、主に口伝えによって、未来への希望を歌い継いできた。その「自由」な曲風と「調和」の取れたハーモニーは、すべて、「束縛」と「差別」へのアンチテーゼなのである。

国内では、クリスマスや年末の風物詩という感のあるゴスペル。しかし、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」に勤める古澤英明氏にとっては、人生の転機であったようだ。その魅力はどこにあるのか。同ホテルのスイートルームにて、詳しい話を伺った。

 

付いたあだ名は「グレープフルーツ」

一時はプロ雀士の道も歩んだ、波乱万丈の人生

Q) 本日はいろいろなグッズをご持参いただいたようですが、このゲームソフトは何でしょう?

A) 家庭用ゲーム機のマージャンソフトです。この左隅に載っているのが私、「古澤英明プロ」と書かれていますよね。実は、父親が航空会社に勤めていた関係で、一時アルゼンチンに住んでいたことがあるんです。現地では、商社の方々などと家族ぐるみのお付き合いをしていまして、食事やゴルフを楽しむのと同様、マージャンも重要なコミュニケーション手段でした。ですから、小さなころから、ある意味で英才教育を受けていたわけです。あれは、日本に戻って大学生活を満喫していたころでしょうか。試しにプロテストを受けてみたら、見事に合格。トップの成績を残したこともあります。

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新進気鋭の棋士という印象を受ける、当時の古澤プロ
新進気鋭の棋士という印象を受ける、当時の古澤プロ

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穏やかな語り口で話す、現在の古澤氏
穏やかな語り口で話す、現在の古澤氏

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Q) 古澤さんにとってアルゼンチンとは、どのような場所でしたか?

A) 私の住んでいた首都ブエノス・アイレスは日本との時差が約12時間、日本と同じように四季がありました。まず目に飛び込んできたのは、果てしなく広がる大草原「パンパ」と、向こう岸が見えない程の川幅を誇る「ラプラタ川」の雄大な景色。また、世界一おいしいといわれる牛肉が主食で、世界第5位の生産量を誇るワインなどがいつも身近にありました。しかし、私にとってアルゼンチンは、サッカーとタンゴの国。いつも天気に恵まれていましたから、朝から晩までサッカー漬けの日々でした。地元開催のワールドカップで、アルゼンチン・チームが優勝した試合を見ることができたのは、一生忘れられない思い出です。

Q) サッカーは、ご自身でもプレーされていたのでしょうか

A) もちろんです。向こうの人は、色白で目がぱっちりしてますでしょ。ですから、休憩時間になると、チームメイトが不思議に思ってこんなことを言うんですね。「なぜオマエは、果物にナイフで線を入れたような目をしているんだ」と。おかげさまで、周りから「グレープフルーツ」と呼ばれていましたよ。そのころは小学生でしたから、別に嫌な気もしませんでしたし、総じていい思い出ばかりです。ヨーロッパの富豪が理想の国を作るために移住してできた国だけに、「南米のパリ」と呼ばれるのも、うなずけますよね。

Q) サッカーとマージャン、なかなかホテルと結びつかないのですが?

A) この業界を選んだのは、アルバイトを通じてサービス業に興味を持ったからです。それに、旧・「ホテルニューオータニ」では年に1回、南米セールスをやっていて、アルゼンチン時代の知人がいたのです。そのような縁からこの道を歩み始めたのですが、泊まりや夜勤が多いし、年末年始も関係ないですし、新人時代は本当につらかったです。逆に楽しかったのは、多くの芸能人と出会えたこと。宮沢りえと貴乃花の婚約会見や松田聖子の結婚披露宴など、数々のドラマがありましたね。

当時は、業界紙『HOTEL JUNKIES』で連載もしていた
当時は、業界紙『HOTEL JUNKIES』で連載もしていた

その地声は、まさに爆撃機!?

人生が変わった、ゴスペルミュージックとの出会い

Q) 多彩な才能をお持ちなのに、さらにゴスペルが加わるわけですよね?

A) ゴスペルとの出会いは1998年のことでした。旧・「ホテルニューオータニ」は、海外の提携ホテルと人的交流を行っていたんですね。私はその送迎会で、よく英語やスペイン語の歌などを披露していました。そしたらある日、「ゴスペルをやってみませんか」って、声をかけられたんですよ。物は試しというわけでチャレンジしてみたのですが、楽しくてしょうがなかったですね。楽譜もなしに、自由に表現できるおもしろさというのかな。それがきっかけで音楽教室に通うことになったら、半年後に「カーネギーホールに出てみませんか」と。あそこはクラッシックの殿堂として知られていますが、ビートルズやローリング・ストーンズといったロックの巨人も歌った場所ですよね。一生に一度あるかないかの体験ですから、10日間の休みを頂いて、ニューヨークへ出かけました。

Q) 本場でのコンサートはどうでした?

A) カーネギーホールは、そこで歌えたことに対する感慨はあるものの、巨大過ぎて実感が持てなかったのです。結果として衝撃的だったのは、その後に行ったハーレムの黒人教会でした。彼らからしたら、見たこともないアジア人が、自分たちのソウル・ソングを歌っているわけですよね。それなのに、いざ私達が歌い始めると、300人に及ぶ黒人の聴衆が泣き始めたのです。「ゴスペルって、こんな力があるの?」と、むしろ、こちらが驚いたぐらいです。この音楽には、差別によって傷付けられてきた歴史的な背景がありますから、彼らも温かく迎えてくれるんですね。かえって、「クリスチャンでもないのに、歌ってもいいの」という葛藤すら感じました。

「三声で歌うので、はまったときが快感」と、即興を披露
「三声で歌うので、はまったときが快感」と、即興を披露

Q) ゴスペルの魅力はどこにあるのでしょう?

A) 何よりも、歌に喜びと希望が満ちていること。音楽的には「瞬間的創造性」とでも言えばいいのでしょうか。その瞬間の閃き、導きを優先するので、同じ曲でも常に異なります。黒人の多くは文字を持たない口承文化で育ちましたから、ゴスペルも、指導者がソプラノからテナーまで実演して教えるのです。いわば、それ自体がアートであり、楽譜に縛られない自由さがあります。そして、歌い継がれていくうちに、時代を反映しつつどんどん進化していくのです。また、ハーモニー自体の力強い美しさも、魅力のひとつでしょう。彼らの地声ときたら、まあ、すごいんですよ。声の厚さも太さも違う。まるで、耳の横をB-29が飛んでいるような迫力ですからね。かといって、決してうるさいわけではない。深く豊かな歌声なんです。

 

ホテルにしかできないおもてなしとは

ゴスペルの新たな可能性を目指して

Q) こちらのホテルでも、ゴスペルコンサートを行われたそうですね?

A) はい。2014年のクリスマスに開催しました。実は、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」に入社したのが、その年の10月。一時はこの業界を辞め、個人事業主としてゴスペルの普及に取り組んでいたのです。その後、ご縁があって復職し、現在では、海外顧客の開拓を担当しています。普段から心がけているのは、いかに「ありがとう、また来るね」と言っていただけるかということ。そのためには、施設というハード面よりも、楽しいひとときを演出するソフト面が欠かせないと考えています。その一例として、例年開催していたクリスマスコンサートに出演したのです。

冒頭の写真で使われた、同ホテルロビーの様子
冒頭の写真で使われた、同ホテルロビーの様子

Q) 「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」とは、どのようなホテルなのでしょう?

A) 横浜駅直結という立地もあり、利便性が高く、客室もレストランも年間を通じて高稼働ですね。また、世界的なスターウッド・グループの一員である「シェラトン」は海外でも著名ですから、求められるサービスの質も高く、あらゆる部分でグローバルなおもてなしが欠かせません。なかには対応が難しいケースもありますが、社内的な組織間の壁を越えて、しっかりとしたコミュニケーションを取ることで乗り越えてきました。また、横浜という土地柄自体も、都内とは異なるように思います。時の流れが少しゆったりしているというか、人が優しいですよね。個人的に驚いたのは、ライバルホテルとの交流や情報交換が盛んだということ。やはりホスピタリティ産業の要は、作法のような「型」ではなく、人を中心とした「心」なのではないでしょうか。

外国人の利用率が40パーセントを越えるという、 同ホテル外観
外国人の利用率が40パーセントを越えるという、
同ホテル外観

Q) 最後に、今後の予定や取り組みたいことについてお願いします。

A) では、ゴスペルのご案内から。来る54日(祝)、日比谷公会堂で開催される「Japan Gospel Choirs Fellowship 2015」に、「ドミニオン&パワー・ジャパン」として出演する予定です。JGCFは日本中のゴスペルクワイア(聖歌隊)が集う大規模な大会で、延べ人数にすると2000人の規模になります。基本は、全員参加。演者と聴衆という形には分かれませんので、壮大な歌声が、皐月の空に響き渡るでしょう。一方、ホテルの従業員によるクワイアが実現できたら、おもしろそうですよね。世界に開かれた横浜を感じさせる「人のつながり」を、形にしたいと思っています。皆さんも、宗教音楽という枠をはめず、ひとつのサウンドとしてゴスペルを楽しんでみませんか。そこにはきっと、すばらしい発見があるはずですから。

毎月行われるゴスペルコンサートを収録した代表作、 『Gospel Praise 4』 ほかにも、ゴスペルの指導を中心に、練馬区 「大泉セントラルチャペル」でのコンサートなど鋭意活動中
毎月行われるゴスペルコンサートを収録した代表作、
『Gospel Praise 4』
ほかにも、ゴスペルの指導を中心に、練馬区
「大泉セントラルチャペル」でのコンサートなど鋭意活動中

Global Gospel Communication
http://page.freett.com/globalgospel/index.gcc.html

ドミニオン&パワー・ジャパン
http://dpgospel.wix.com/dpjapan

横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ
http://www.yokohamabay-sheraton.co.jp/

Post Author: yokohama_viaggio